安保法制議論で足りなかったこと。(佐伯啓思著「従属国家論」を読んで)

安保法制に関連する論点を僕なりに整理すれば、
大きく以下の4点に集約される。

(1)日本の安全保障・防衛の基本方針
(2)集団的自衛権の解釈
(3)集団的自衛権の違憲性
(4)国会での議論の進め方

特に衆議院特別委員会で関連法案が通過して以降、
日本の世論の趨勢は(3)と(4)に収斂していった感想を受ける。

(1)(2)は日本という国家そのものの方向付けに関わる問題だと思うのに、
国会での議論があまり伝わってこなかった。
これは、メディアでの取り上げ方が量的に少なかったと同時に、
国民の関心も低かったからなのだろう。

日本はアメリカ合衆国と一蓮托生という前提が
国民やメディアにあるからだろうと思う。

日本は自由主義・民主主義の法治国家であり、
そうした価値観を持つ国家群のリーダー核がアメリカなのだから、
日本はアメリカと行動をともにすれば良い。

もはや現在の日本において、アプリオリに存在する原理すら言える
この前提に、議論は必要ないのだろうか。
本著では、「あの戦争」の「終戦」いらい、
日本はアメリカの催眠術にかけられた状態であることを、示唆している。

第一段階は、ポツダム宣言。
これはアメリカ、イギリス、中華民国による共同宣言というオブラートに包まれているが、
事実上アメリカ一国の価値観を押し付ける文書である。
この宣言の受け入れは、
少なくとも日本が仕込んだ満州事変以降の戦争状態が、
侵略として認定され、「東京裁判」の判決へと繋がっていく。

第二段階は、日本国憲法。
これがマッカーサーの司令を受けた
GHQ民生局によって起草されたのは周知の事実だが、
1947年5月、つまり日本が未だ「連合国」の占領下にあった時に、
施行されていることも、大きな問題。
占領下だから、日本という国家に主権は無い(制限されている)し、
国民に主権が無い
(厳密に言えば、憲法施行と同時に国民は主権者となったが、
国家としての主権は行使できない占領下状態が
1952年4月に講和条約を締結するまで継続している)。
その後、独立を取り戻してから、
改憲なり国会による再承認の手続きがなされたわけではないので、
この憲法は、国体上の矛盾があり、いわば違憲だ。

そして第三段階は、日米安全保障条約。
これは、上述の流れで、
武装解除され軍事力を制限された日本側からアメリカへのお願いというか、
その状態を逆手に取って経済復興を優先させようとした
吉田茂の意趣返しとしての意味合いも強い。

けれども、こうした流れによって、
<自由・民主主義は最も素晴らしく尊い価値観であり、 こうした理想的世界を築くため、 アメリカが率先して指導する。 それまで日本が行ってきたのは侵略であり、 侵略を企てた者は罰せられなければならないし、 侵略行為に結びつくような武力は持ってはならない、 日本の安全に何らかの支障が生じることがあれば、 アメリカが日本を守ってくれる。>
という考え方は、多くの日本人に広がったと言えよう。

このことはアメリカと結びつき日本の共産化を阻止し、
経済を立て直そうと考えた「右派・保守派」にも、
国家権力による抑圧や戦争に巻き込まれたく無い、
と願う「左派・革新派」にも、好都合だった。
だから70年近く、大きな議論を呼び起こすことにはならなかったのだ。

でも、アメリカには日本を守る義務など無かった。
<アメリカが掲げる価値観を共有する前提において、 アメリカの必要性によっては、 アメリカは日本を守る場合もある>
程度のもの。
アメリカの国益に適う場合にのみ、
日本はアメリカに助けられる可能性がある。

集団的自衛権とはそういうことだと思う。
自国の国益に結びつくからこそ、
同盟国の自衛に加勢する意味がある。

だからほんらい日本国民が最初に考えなければならないのは、個別防衛。
自ら戦争を起こす気など無くとも、
自国民の生命や財産は自国で守るのが筋。
独立国の原点だし、他国を信じきってはいけない。
民主主義を標榜するなら、主権者たる国民一人一人に
自国防衛の義務がある。
これは必ずしも国民が兵役に就かねばらなない、
という話にはならない。

もちろん、外交や武力以外の国力によって
他国からの武力行使を阻止する努力が必要だ。

もっと税金を払って傭兵を雇う選択すらあり得るし、
それがアメリカの軍隊だというのなら、
価値観の共有と切り離して議論すべきだと思う。

つぎに、アメリカで良いのか、という話。
アメリカの掲げる自由と民主主義がホンモノなのか、
自由と民主主義が、近未来の世界に幅広く浸透する価値なのか、
いろいろ考えて見る必要があると思う。

「戦後レジーム」の見直し・脱却と口にする人たちは多いけど、
未だに真剣な見直しがなされていないし、
戦後レジーム自体の定義すら曖昧だ。

著者は嫌米主義者では無さそうだし、
かなり中庸・客観的な立場で、戦後レジームを述べていると思う。
日本がアメリカの「従属国家」のままで良い、悪いの結論も出してはいない。

かつての絶対王政がそうだったように、
日本の防衛はアメリカに委託し、その代わり主権もアメリカに預ける、
みたいな選択肢だったあるのだろう。
僕は反対だけど、
いずれはっきりさせて行かなければならない
重大なテーマであることに違いない。

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