ソウル・マイニング- 音楽的自伝 by ダニエル・ラノワ

U2の”Joshua Tree”、Bob Dylanの”Time out of my Mind”、The Neville Brothersの”Yellow Moon”は、ぼくの大好きなアルバムの一部だ。iPhoneに残された再生回数はどの曲も30回を超えている。
これらのアルバムをプロデュースしたのがDaniel Lanoisであり、本書の著者だ。

多くの自伝にあるような苦労話や自慢話とは異なる、音の採掘人としての彼の人柄が滲み出た書物であり、彼が求めつづける音楽=魂を探し当てるためのロード・ムービー。

録音に入る前に、Lanoisはアーティストと語り合うという。
どんな音を求めているのか、どんなアルバムを目指そうとしているのか。
カウンセリングだ。

それから、音を用意する。
ミュージシャンが演奏するための最高の環境を準備する。

Lanoisが拘ったのは、バラバラにならないこと。
いまのレコーディングといえば、楽器ごとにブースに入り、ガイドのクリック音に合わせてトラックを録音するような、孤独なスタジオミュージシャンをイメージしてしまう。
もはや誰もがDTMによる重ね録りで、それなりのサウンドをシミュレーションできてしまう。
けれども、Lanoisはライブなグルーヴ感を追い求めた。
アーティスト同士がアイコンタクトできる。インプロヴィゼーションできる。
廃業した映画館にステージをこしらえて、テープを回す。一体感が奇跡を誘発する。
だから、単一音源。
個別トラックを後からミックスするのではなく、セッティングで音の奥行きや広がりをつくる。

Lanoisは、情報共有にも拘った。
例えば、エンジニアやミキサーしか見ることができなかったタイムコードを、誰もが見ることができるようスタジオに掲示した。
アーティストは、満足できなかったフレーズのタイムコードを記憶に残せるから、効率が上がる。
金魚鉢のようなミキシングルームから、トークバックで怒鳴りあうことも無い。

そして、機材を大切にすること。
「機材が壊れていたり、ほこりを被っていたりしたら、自分の人生を見直す必要があるとわかるのだ。」
アーティストと同じくらい大切な機材。少なくともこいつは大切にしていれば、言うことを聞いてくれる。

Lanoisの拘りは、そのままビジネス・マネージメントに活かされる。
メンバーとよく話し合い、目標を共有する。
事前に最高の準備をする。
一体感を保つ。
情報を共有する。
後方支援部隊を大切にする。

もちろん、Lanoisがいつもアーティストとうまくやってきたわけではない。Bob Dylanとは彼との協働に満足していなかったことを告白している。
アマチュアであろうが一度でもバンドをやったことがある人間は、互いの方向性が合わなくなった時の嫌な雰囲気を体験しているはずだ。
レコーディング中、スランプに陥ったり、期待されたプレイが出なかったり、雰囲気が悪くなっても、商売になる音源を完成させるのがプロデューサーの仕事だろう。
Lanoisは駐車場やホテルの部屋で、離れつつあるアーティストをつかまえて語り合い、引き止め、モチベーションを取り戻させたのだろう。
苦労話は語られていないが、行間からは滲み出ている。

本書は音楽好きはもちろん、マネージメントに悩んでいるビジネス・パーソンに対しても、インスピレーションをかきたてるだろう。